山崎先生の運用記です.記されている時間は特に断りのない限り現地時間です.(10月末よりは冬時間になり、UTC + 1 hr, JST - 8 hr となりました.)


研究室勢ぞろいのスナップ。後列左から4番目が私です。

Magic Band in Sweden (33)

最終回


ビーコンにつきましては、こちらにまとめてあります.


2002.11.30 (Sat) - 12.01 (Sun)

スウェーデンで5回目のクリスマスシーズンを迎えた。この時期のスカンジナビアは、一日の大半が暗闇に閉ざされる。北欧の冬を経験した人ならおわかり頂けると思うが、厳しい冬の寒さは暖房や暖かい衣服で何とでもなる。問題は陽の短さ、暗さである。地元の人間でさえも、その陰鬱な雰囲気に心を病んでしまうことが少なくない。人々は微かなキャンドルの灯に心のよりどころを求め、じっと堪え忍んで生きている。そんな彼らにとって、クリスマスは冬の間の唯一かつ最大の楽しみであり、 数週後にやってくるクリスマスを心待ちにしながら、毎日必死に暗闇と戦っているのである。(クリスマスが過ぎると陽が長くなり始める。)私は普段から夜型の生活をしているためか暗闇に対する免疫があり、今までは冬が来ても自分自身には何の変化も感じなかった。しかし、最終的な帰国があと半月後に迫った今年だけは、私にも特別の思いがあった。「スウェーデンのクリスマスもこれが最後か、、、」それを思うと、見慣れた街角の風景が全く別のもののように見え始め、マルメで過ごした5年弱の出来事が走馬燈のように頭の中を駆けめぐった。 私にとって第二の故郷となったマルメの風景をもう一度脳裏に焼き付けるため、できる限りゆっくりと街を歩きたかったが、現実はそれを許さなかった。自宅と研究室の荷物を片付けるだけでも忙しいのに、帰国する前に最後の一実験を計画していたため、 もはや私には十分な時間が残されていなかった。もちろん無線をする余裕などなく、 今週末で完全にQRTする予定を立て、アンテナを片付けるために屋上へ上がった。 まず最初に衛星用のアンテナを箱に入れ、クッションで保護してからガムテープで封をした。次は50MHzのHB9CVの番だ。しかし、薄汚れたその姿を見ていると、この小さなアンテナが成し遂げた数々のmagicが一気に思い出され、なかなか片付けることができない。「最後にもう一度だけ50MHzにQRVしたい!」胸の奥に熱いものがこみ上げてきた。しかし、今ワッチしたところで、この時期のバンドが閑散としていることは想像に難くない。一旦は意を決してHB9CVに手を掛けた私であったが、その瞬間、 私の耳元で誰かがささやいた。「帰国の数日前にふたご座流星群がある」、「そのときまでに引っ越しの準備が終わっていれば最後にQRVできるかも」、「HB9CV1本だけならすぐに片付けられるよ」それは悪魔の罠か、それともmagic bandの女神の誘惑か、、、。しばらく悩んだ末、私はその誘いにのって最後の賭に出ることにした。

2002.12.13 (Fri) - 14 (Sat)

帰国まであと5日。ある天文関係のホームページの情報によれば、明朝05:00前後にふたご座流星群がピークを迎えるはずだ。ここ数日間必死に頑張った甲斐あって、 自宅の荷物は概ね片付いたが、研究室の方はまだ手付かずの状態であった。「今日の頑張りで最後にQRVできるか否かが決まる!」朝から気合い十分であったが、研究室の整理は遅々として進まなかった。蛋白質や遺伝子等の研究サンプルは、普通の家財道具のようにただ箱に詰めればよいというものではない。輸送の途中で貴重なサンプルにトラブルがあっては、数年間の苦労が水の泡になってしまう。慎重にサンプルを整理して梱包作業をした結果、気がついたときには既に20:00に近かった。さらにこの後、実験ノートや本を箱に詰め、不要になった試薬を処理し、最後に自分の実験スペースをきれいに掃除しなければならない。どう考えてももう1日かかりそうだ。 ここで、普通の人間ならば無線などきっぱりと諦め、明日改めて片付けの続きをすることだろう。そう、普通の人間ならば、、、。何を隠そう、私の無線病は既に末期状態となっており、先月のしし座流星群で徹夜した際には、JN1BPM鈴木先生でさえ 「もう手の施しようがない!」とサジを投げたほどである(笑)。そんな私にとって、そのまま徹夜して研究室の整理と無線を同時進行することなど、あまりにも簡単すぎる決断であった。夕食を済ませて再び研究室へと戻った私は、22:30頃に屋上へ上がって最後のアンテナ作業を開始した。そのまま20分ほどワッチしてみたが、まだ一発もバーストを捕らえることができなかった。「先月のしし座流星群のときのように、 ピークの直前から一気にブレークするはずだ!」そう信じて、まずは研究室の片付けを進めることにした。その後、「40分研究室で片付け、20分屋上でワッチ」を延々と繰り返したが、いつまでたっても全く何も聞こえてこないではないか。いつの間にか時刻は04:30となってしまった。不安になって何度も空を見上げてみたが、今夜はスカンジナビア特有の厚い雲に覆われて何も見えない。では、Web Cluster はどうか。そろそろどこかでMsがレポートされてもよい頃だ。ところが、意外にも Web Clusterは閑古鳥が鳴いている。何だかよくわからなかったが、とにかく流星群の極大の時間に合わせて屋上へ上がることにした。05:10から10分間連続してCQを出し、その後06:20までワッチしてみたが、一瞬の短いバーストさえも聞こえない。 「絶対に何かが間違っている!」少し濃い目のコーヒーを飲んで脳細胞を活性化させた後、落ち着いて状況を判断することにした。「時間帯が悪くてみんな寝ているのか?」、「いや、しし座流星群のときは03:00頃からかなりのアクティビティーがあったではないか!」、「では、流星群のピークはまだ先なのか、それとも既に過ぎてしまったのか?」自問自答を繰り返しながらインターネットで情報を集めていると、遂に衝撃的な事実を発見した。私が最初に見た天文関係のホームページでは、 「ふたご座流星群のピークは05:00」と書かれていたが、別のホームページでは 「11:00」となっていた。さらに調べてみると、「ふたご座流星群はピークの幅が広く、極大となる時刻の予想が非常に難しい(数時間のズレは珍しくない)」、また、 「ふたご座流星群は流星の総数自体はしし座流星群よりも多いが、しし座流星群のようにピーク時に流星が集中することはない」ということが判明した(私の理解が正しければ)。その事実に私の疲労感が一気にピークを迎えたが、今さら途中でやめる訳にはいかない。せめて研究室の整理だけでも終わらせなければ徹夜をした意味がなく、それこそ単なるバカになってしまう。私は再び「40分片付け、20分ワッチ」を繰り返すことにした。06:30頃、わずかな雲の切れ間に流れ星を連続して2つ発見した。すぐにワッチしてみたが、残念ながら何も聞こえてこなかった。「このまま終わるのか、、、」と諦めかけた09:00頃、遂に弱いバーストでSM2某局のCWを確認。 コールする前に消えてしまったが、今回初めて捕らえたMsのシグナルに大いに感動し、多少は自信を取り戻した。次にバーストを捕らえたのは09:53。ほんの一瞬だけSSBのシグナルが57で入感したが、コールサインを確認することはできなかった。 そのままワッチを続けていると、10:07にIW3SBRのCQを発見。それほど強いバーストではなかったが、今度ははっきりとコピーできた。もちろん、スタンバイと同時に コール。しかし、彼は物言わぬまま姿を消してしまった。結局、ログは全く進まない代わりに、研究室の整理だけは着々と進行し、11:00頃には遂に片付ける物がなくなった。「残るは屋上のアンテナだけだ、、、」覚悟を決めて屋上へと上がる。

SM7XQZ 最後のワッチは案の定雑音しか聞こえなかったが、目を閉じると雑音の向こうから溢れんばかりの思い出が一気に押し寄せてきた。春のF2、夏のEs、自然の神秘を感じたAuとMs、、、。そして、私は晴れ晴れとした気持ちでペンを持ち、ログにこう記した。

「SM7XQZ finally QRT!」

正に感無量の思いであった。アンテナを分解するために屋上へ出ると、いつの間にか厚い雲は消えてなくなり、この時期には珍しい青空が広がっていた。空もSM7XQZ最後の日に敬意を表してくれたようだ。1年間風雨にさらされたHB9CVはお世辞にもきれいとは言えず、よく見るとエレメントを固定するネジがひとつなくなっていた(電気的には問題ない)。満身創痍のアンテナを心を込めて分解し、丁寧に箱へと戻した。そして、いよいよ屋上を去る瞬間がやってきた。 無線設備一式はもちろんのこと、風に揺れるマストをいつもしっかりと支えてくれた支柱、何度も開け閉めしたたドア、倉庫から拾ってきた机、数えきれないほど上り下りした階段、、、そこにある物すべてが、私と多くの喜怒哀楽を分かち合ったかけがえのない仲間のように思えてきた。

「たくさんの素晴らしい思い出をありがとう!」、 「いつの日かまた会おう!」

私は仲間達にそう声を掛けて屋上を後にした。


SM7XQZ QRTのご挨拶


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