旅行雑誌などをみてみると、「群馬弁は「〜だんべぇ」という助動詞があまりにも有名」などと書いていますが、それは数ある群馬弁の特徴を表した氷山の一角にすぎません.
その他にも特徴的な表現があります.「だんべぇ」だけではなく、群馬弁の世界へもう一歩踏み込んでみましょう.

群馬弁は、ところどころに挿入される「ぃ」、「ぇ」、「ぁ」、語尾の弱い「」などの撥音化、「っ」という促音化なども特徴的です.

あわせてイントネーションのページもぜひご覧下さい.

のマークのあるものは、音声(MP3形式)を聞くことができます.
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・・・「だんべぇ」だけではない、その多彩なヴァリエーション

助動詞各論についてはこちらを参照

群馬弁は「〜だんべぇ」という助動詞があまりにも有名ですが、そればかりではありません.
地域に根付いた助動詞があります.例を挙げながら説明します.

「〜だんべ」あるいは「〜だんべぇ」

「・・・だ!」という断定表現から、「・・・でしょ?」という疑問まで、群馬を代表する助動詞.とりあえずこれをつけるだけで共通語を群馬弁に代えられます.

例:「そーだんべぇ!」・・・「そうだろ!」
  「そーだんべぇ?」・・・「そうじゃない?」
「ゆったんべぇ!」・・「いっただろ!」

注意北海道南部地域では、女性性器のことを「ダンベ」とよぶ.北海道にいって「〜だんべ!」を連発していると、思わぬ誤解を受けるかもしれないので注意したほうがいーだんべ!

「〜だぃね」

「・・・だよね」という軽い断定.これが使えれば更に群馬弁に近づきます.「ぃ」は意識せず、小さく発音.

例:「そーだぃね」・・・「そうでしょ」

  「こまったぃね」・・・「困ったよ」

「〜だにぃ」:太田周辺

太田では、「だぃね」、「だんべぇ」が「だにぃ」にしばしば変化.

例:「そーだにぃ」・・・「そうでしょ」
  「ゆったんにぃ」・・・「いったでしょ」

「〜だが」、「〜だが:桐生周辺

桐生では、「だぃね」、「だんべぇ」が「だが」、「だがん」にしばしば変化.助詞の項の「だがね」もこの「〜だが(ん)」+助詞の「ね」と推定されます.

例:「そーだが」・・・「そうでしょ」
  「そこにあるがん!」・・・「そこにあるでしょ!」
  「ゆったが」・・・「いったでしょ」

前橋には「だんべぇ踊りがありますが、太田では「だにぃ踊り」、桐生は「だがん踊り」になるのでしょうかね??(笑)

「〜な(た)んさねぇ」「〜な(た)んさぁ」

「な」は現在の、「た」は過去の行動の断定.

例:「そーなんさねぇ」・・・「そうなんだよ」
  「ゆったんさぁねぇ」・・・「いったんだよね」

「〜だっぺ」:栃木・茨城県で広く使われている助動詞であるが、利根・沼田地区で局地的に使われている.さらに利根地区の一部では「だっぴゃー」も使われていると聞く.

例:「そーだっぺ」・・・「いったでしょ」

願望の助動詞「〜たい」は、「ない」に連続するとき、本来、連用形接続「たくない」になるはずなのに、「未然形接続」し、「〜たかない」と表現される

「〜たくない」が単に鼻音の「たくぁない」にかわり、「〜たかない」になったのか?

例:「いき(ぎ)たかねぇよ」・・・「いきたくないよ」

「〜よーだ」(I will ....)

様相(just like ....)を表す「よーだ」ではなく、自身の未来への行動・意志を表す.

例:「あんな便利な店があるんなら、まいんち(毎日)いぐよーだね.」
「そんなおもしれぇホームページなら、まいんちみるよーだね.」

「〜りぃ」

主に西毛地区で使われている「軽い命令、うながし」の助動詞.通常女性が使用する、女性言葉.

例:「これ、たべりぃ」・・・・「これ、たべなさいよ」

・・・さりげなく群馬を語る. 
弱い「」を使いこなせ!

助詞各論についてはこちらを参照

所有などの格助詞「の」などが、高率に「ん」に変化します.

例:「おれんち」・・・「おれの家」 「すずきところ」・・・「鈴木の所」

語尾での終助詞「の」が、しばしば「ん」に変化します.

この「ん」は非常に弱く発音されます.この弱い終助詞「ん」は群馬県人になりきるのには是非必要な表現.この撥音化は特徴的!

例:「そうな?」・・・「そうなの?」
  「きたん?」・・・「来たの?」
  「なんなん?」・・・「何なの?」(最初の「な」が強い場合は不快感を表す)
  「やめた?」・・・「やめたの?」

※群馬が舞台のNHKの朝の連続テレビ小説「ファイト」(2005年)が、県内でいまひとつ盛り上がりにかけたのは、「登場人物があまりにもきれいな共通語をしゃべっていて、舞台が全然群馬らしくない」ということにも起因したのではないか.何も出演者全員「〜だんべ」を使えよというわけではないが、現実には四万の旅館の仲居さんも、高崎や前橋の女子高の高校生たちもいつも「〜なん?」や「〜なんさぁ」を使っているはず.登場人物がもっとこれらの語尾をきちんと使ってくれたら、県内ではもっともっと「ファイト」が盛り上がっただろうに残念でならない.オレが方言監修してやりたかった(笑).


疑問の終助詞「〜か

:高齢者ほど使用頻度が高い.高齢者では「〜きゃ(ぁ)」にも転訛
若年者では「〜かぃ」が省略され、上の「〜
」が使われることが多い.

「か」にアクセントが強くおかれる場合があります.

例:「そーゆったんかぃ?」 「ゆったんきゃぁ?」
「いぐかぃ?」「いぐきゃぁ?」

2つの顔をもつ 「〜がね!」:主に桐生・足利西部で使用

上の、桐生地区で多く使われているところを勘案すると、桐生で使われている助動詞「〜が」+助詞「ね」が由来でしょうか?便宜上、助詞の項に分類しておきます.終助詞「か」+終助詞「ね」の濁音化かも?

1) 動詞の連体形、状態・断定の助詞「た、だ」に接続して、過去の行動・現在の状態の「念押し・非難」を表す.「がね」に強いアクセントがおかれる.

例:「ゆったがね!」「だめだがね!」「そりゃ、方言だがね!」

2)連用形接続し「軽い命令・うながし」を表す 上と比較すると「がね」の発音が弱く、末尾がのびる傾向がある.

例:「ゆえばいーがねぇ! 」

間助詞「さ」は多くの場合「さぁ」

本来間助詞なので軽いはずだが、「さぁ」が強く、他県の人には耳障りと思うほどである.

例: 「昨日、医者ったんさぁ.そしたら、っからまたされてさぁっかもだかわっさぁ


加勢の助詞「りぃ」:伊勢崎以東に分布

格助詞、あるいは間助詞かもしれない.この「りぃ」は群馬東部で特徴的である.伊勢崎以東に分布する.

「こんなすげーことがあったんだでぇ!」と第三者に語るときに臨場感を出すため行為・過去の発言・擬態語・擬声語を効果的に引用したり、文章に組み込むための表現.話し言葉に「勢い」をつける.「りぃ」は 弱く発音される.伊勢崎や境では、「りぃ」の前にくる母音がイ段のときは「ら」に変化する.これを使いこなせれば東武線沿線で立派な「ネィティブ」として認められよう!


例:「こないだの突風でお寺の木が倒れたんさね、『バキ〜』りぃ(ら)!! 」
・・・・「このあいだの突風で、お寺の木が倒れたんだよ!『パキ〜』ってね!」

「昨日、まちでいきなり、『おめーは誰だ!』りぃ、ゆわれたんさ!」
・・・・「昨日、まちでいきなり『あなたは誰ですか』っていわれたんだよ!」
「注射いきなし打たれたんさ、『チクーン!』りぃ!」
   ・・・・「注射をいきなり打たれたんですよ、「チクーン!」ってね!」

係助詞「も」が、「や」に変化し、否定語が続く.

例:「きやしねぇ!」・・・「きもしない」
  「みやしねぇ!」・・・「みもしない」

名詞、動詞接続の「げ」:使用頻度は高い!

状態を表す形容詞に「げ」がつき、形容動詞化するものは共通語でもある.(例:「寒げ」「優しげ」) ただあまり共通語では「げ」をつけない形容詞にも好んで?「げ」をつけることが多く、多くの場合「〜そう」とはいわれず「〜げ」が高率につかわれる.
でもそれ以上に「名詞+げ」「動詞の完了形+げ」は、特徴的.これを使いこなせれば群馬人にぐっと近づく.

例:「いたげぇ」・・・・「痛そう」 
「しょっぱげだぃなぁ」・・・・「しょっぱそうだなぁ」
「高げな車のってなぁ」・・・「高そうな車のってるね」
「まっさか、よさげだぃなぁ」・・・「たいそう良さそうだね」
「明日天気悪げ」・・・「明日天気悪そう」

「いったげ?」・・・「いったみたい?」
「死んじゃったげ?」・・・「死んでしまったの?」
「ぼっこわれたげ?」・・・「故障したの?」
「ザスパ、勝ったげ?」・・・「ザスパ、勝ったの?」
「げ、したげ?」・・・・「嘔吐したみたいですか?」

「ばかげだぃなぁ」・・・「ばかみたいだなぁ」
「逆さげ?」・・・「反対?」
「切れなげなメス」・・・・「切れなさそうなメス」
「休みがなげなことゆってたぃね」・・・「休みがないようなこといってました」
「おじいちゃん、入(退)院げ?」・・・「おじいちゃん、入(退)院するの?」
「にーちゃん(赤ちゃん)げな服」・・・「おにーさん(赤ちゃん)のような服」


限定の「きし」「〜ばぁい」.「ばぁい」は「〜して間もない」という意味も.

これが自然に使いこなせればもうネイティブ!

例:「これっきししかねぇんかい?」(「きし」は中毛地区でよく使われる)
「そんなことばぁい、ゆってる.」(限定の「ばぁい」)
「そんなに酒ばぁい呑んでると、体ぼっこすよ!」
「お茶飲んできたばぁいだぃね.」
「ドラマ始まったばぁいだ.」(「〜して間もない」の「ばぁい」)

・・・独特の口調を生む!

形容詞各論についてはこちらを参照

「〜るい」の場合、形容詞の語尾が、いばしば「〜りぃ」に変化します.

例:「かったりぃ」・・・「かったるい」
  「ぬりぃ」・・・「ぬるい」

助詞が連続する場合、形容詞の語尾が、「〜ぃん」に変化します.(撥音化);「ぃん」の前の音節にアクセントがおかれます.

例:「さぃんねぇ」・・・「さむいね」
  「あぃんなぁ」・・・「あついなぁ」

「〜ない」に形容詞が連続する場合、本来連用形接続になるはずなのに、「未然形接続」します.

「〜くは」が、単に鼻音の「くぁ」にかわり、「か」になったのか?

例:「いたかない」・・・「いたく(は)ない」
「さむかない」・・・「さむく(は)ない」

連体形接続場合、形容詞の語尾が、「〜ぇ」に変化します.

これにより語気の荒さが増幅します.一部は促音化します.

例:「すげぇやつ」・・・「すごいやつ」
  (「やつ」はどちらかといえば侮蔑語であるが、群馬県人は「人」という意味で使う人が多い)
  「でっけぇ人」・・・「でかい人」
  「痛ぇ注射」・・・「痛い注射」
  「桐一、全国制覇すげぇんねぇ」・・・「桐一、全国制覇すごいねぇ」

形容詞の文頭に「こ」がついて、形容詞を強調し、一部は促音化することもあります.

例:「こっぱずかしい」「こぎたない」「こっぴどい」など

・・・接頭語の魔術、独特の活用、まるで喧嘩しているよう・・・

動詞各論についてはこちらを参照

動詞を強調する?「おっ」、「ぶっ」、「かっ」、「すっ」、「ひっ」、「つっ」などの接頭語がつきます.
また動詞の内部にも促音が入ってきます.

しかし群馬県人は別に、その行為を強調しているという認識はないことが多いのですが・・・・

「来ない(こない)」は、「きない」と表現される.

概ね群馬県全域に広がっている表現で、群馬県人を装うには最適.
数年前まで桐生では「♪はやくぅ、きないとぉ、いっちゃ〜うよ〜」と言いながら、焼きイモ屋さんが回っていた(笑)

例:まだきねぇんだぃね.

「行く」はカ行活用ではなく、「いぐ」、すなわち「ガ行」活用で
「〜行く」という複合動詞もすべて「〜ぐ」であり、「い」は弱い発音であることが多い.

例:
「いぐ?」
「いがねぇんかい」「いぎたかぁねぇんだよ」
「あしたどっかいがない?」「いがない!」
「あそびいぐ?」「いごぅ!」「おれはいがねぇよ!」
「よってぐ?」「よってぎなよ!」「じゃぁよってぐかな」

他に「でぎる」など.しかし群馬県人の多くは、この、ガ行活用にほとんど気づいていません.東北弁の影響もあるのかもしれませんが・・・

その上「いぐ」系動詞では、未来への意志・行動を表す場合は、未然形「〜(い)がぁ」活用される.
例:
「俺が、買って(い)がぁ」・・・「俺が買っていくよ」
「ちょっと、よって(い)がぁ」・・・「ちょっと、よっていくよ」

おそらくもともとの「〜いぐ」と助詞の「わ」がいっしょになり、鼻濁音の「ぐぁ」が、濁音の「が」に転訛したものと思われるが?
「俺が買って(い)ぐわ」→「俺が買って(い)がぁ」

「かえる」は、しばしば「けぇる」と表現される.

同様に」「入る」は「へぇる」です.

 例:「はぁ、 けぇるんべぇ」・・・「もう、帰ろう!」

「赤ちゃんにおっぱいやる(あげる)」ではなく「おっぱいくれる」と表現する.

おっぱいに限らず、「やる(あげる)」は、「くれる」とされることが多い.
小学校では「水くれ当番」もある.こちらもご覧下さい.
常に行為者の方が、「ほら、くれてやるよ」という目上意識があるのかな?

・・・これが使いこなせれば群馬県人.動詞・形容詞を彩るその魔力!


「なっから」あるいは「なから」

「おおか(おーか)」

「まっさか」

これらはみな「たいそう」というような意味で使われています.
しかし、それらの持つ意味合いは若干異なっていると推測されます.他に「うーと」も「たいそう」という意味に使われています.

特に「なから」「なっから」は広く使われており、ぜひ抑えておきたい表現.

またこれらは副詞的な活用のほか、形容詞的に使用される場合があります
例:
「なっからいてぇんだぃね」・・・「(めちゃくちゃ)たいそう痛いんだよ」
「おーかいてぇんだぃね」・・・「たいそう痛いんだよ」
「まっさかいてぇんだぃね」・・・「(こちらが考えていたより)たいそう痛いんだよ」

微妙な違いについての考察は、ぜひ各論をご覧下さい.

「おーか」+「否定語」「あんまり・・・してくれるな(するな)」の意
(注:西毛では、「おーか」ではなく、「おーく」といわれる.)
例:
「おーか無駄遣いすんなよ」・・・「あんまり無駄遣いするなよ」
(腹抱えながら)「おーか笑わせんな」・・・「あんまり笑わせないでくれ」

「まっと」

「もっと」の意
例:
「まっとどけてくなぃ!」
病室のベッドサイドで「まっとどけて」といわれても、それは必ずしも「マットどけてくれ」という意味ではありません.「もっと(横に)寄せてくれ」か「もっとかたづけてくれ」という意味です.

「はぁ」

東毛地区だけかと思っていましたが、意外に広範囲で使われています.
「行為への強い意志」や「現象の確かな傾向」が感じられます.

例:「はぁ、けぇるんべぇ!」
「はぁ、暗くなってきたんな」

「あーに」「そーに」「どーに」「こーに」

副詞「ああ」、「そう」、「こう」、「どう」は、それぞれ「あーに」、「そーに」、「こーに」、「どーに」のように、必ず「〜に」が付き、本来副詞なのに、「指示代名詞的な活用」がされます.
例:「あーにゆえば、こーにゆってるんだぃね」・・・ 「ああ言えばこう言う」
(助詞の項に分類すべきかもしれないが、一応副詞に分類しておきます.)

・・・名詞は文化だ!

名詞各論についてはこちらを参照

個々の名詞は地域の文化であると思います.こればかりは知らないと理解はできません.
群馬を知るためにも覚えましょうね.名詞各論をご覧下さい.

指示代名詞の特徴的変化

群馬県では「あの」、「この」、「その」などの指示代名詞の冒頭が省略されることが多い. 「の」は「ん」に変わり、しかも弱い発音.
しかも冒頭の「ん」には強いアクセントが置かれる.
例:
、わけねぇよ!
、わかるわけねぇよ!
なことゆってねぇよ!

それが「あの」なのか、「この」なのか、「その」なのかは、ニュアンスで判断するしかないでしょう・・・